先日、東京国立近代美術館で7月2日(火)~10月6日(日)まで開催中の「高畑勲展 日本のアニメーションに遺したもの」を観てきました。

想像以上に素晴らしい展示の数々に大感激。
ジブリ関係の美術展と言えば、ほぼいつも日本テレビ主催ですが、今回の主催はNHK。
そうなのです。
今回の「高畑勲展」は、朝ドラ「なつぞら」と思いっきり連動しています。
……と言っても、展示の中や解説には「なつぞら」の「な」の字も出てきません。
各種チラシが置いてあるラックにさりげなく番組宣伝のチラシが置いてあるだけ。
でも、そうだと思えるポイントがちゃんとあるのです。(3つのポイントを後述)
もちろんドラマを観ていなくても十二分に楽しめますが、「なつぞら」ファンが観ると、ますます今後の放送が楽しみになる展示となっていました。
私も高畑作品はもちろん、ドラマの大ファンでもあるので、貴重な資料にいちいち感激しながら鑑賞しました。

「太陽の王子ホルスの大冒険」ほか日本のアニメの原点を知ることができる!
東京国立近代美術館へ。
私が行ったのは、かなり雨が降っていた平日の午前11時頃。


空いている時を狙って行ったのですが、思ったより人が多く、外国人も結構いました。
外国人がわざわざ観に来るだなんて、さすが世界の高畑氏。
尚、私は東京メトロ東西線の竹橋駅から行きましたが、改札を出たところに臨時の高畑勲展チケット売場がありました。
休日は美術館前のチケット売場は行列になっていると思うので、先にココで買っておくとよいかも知れません。
1Fの奥に、いきなりこんな展示が。(チケットが無くても入れる場所)

ヨーゼフだっ!!
写真ではわかりませんが、人が入れるくらいの大きさです。

これまで美術館では一度も音声ガイドを借りたことはないのですが、今回は必須と思って550円を払って機器を借りました。
なぜなら……
高畑勲氏ご本人が解説しているから!!

あっ、いえ、嘘を書きました。
俳優の中川大志さんです。
でもこれが、高畑勲展が「なつぞら」と連動しているポイントその1。
公式には、広瀬すずさん演じる奥原なつが女性アニメーターの草分けである奥山玲子さんがモデルになっているということ以外は明らかにされていませんが、中川大志さん演じる坂場一久が高畑勲氏がモデルになっているということは、その経歴から間違いありません。
「僕が高畑さんを演じています」なんてことは、音声ガイドでも言っていないし、どこにも書いてありませんけどね。
モデルが誰かということは置いておいても、中川さんの声はとっても素敵だし、貴重なインタビューや主題曲が聴けるなど内容がすごく充実しているので、音声ガイドを利用することをおすすめします。

「太陽の王子ホルスの大冒険」の展示。
展示室に入って「狼少年ケン」などの懐かしい資料を観ながら進むと、「太陽の王子ホルスの大冒険」のコーナーに到着。
この作品は私も大大大ファン。

リアルタイムで劇場で観たわけではありませんが、名古屋に住んでいた子どもの頃、夏休みなると毎年必ずといっていいほどテレビで放送されていたので、毎回必ず楽しみに観ていました。
でも、ホルスはかなり古い作品なので、ジブリファンでも観たことが無い人が多いはず。
それなのに、今回この作品の展示にかなりのスペースを割いています。
これが「なつぞら」と連動しているポイントその2。
ちょうどコレを書いている7月8日週で、ヘンゼルとグレーテルを基にしたアニメ短編映画をみんなで構想していく話を放送していますが、ネットでもざわついているように、これはまさしく「太陽の王子ホルスの大冒険」がベースになっているからです。
私もOAを観ながら、
おおおおおーーー!ホルスだーーーー!
と感涙。
設定はかなり違いますが、狼や木の怪物(ホルスでは岩男モーグ)のキャラクターや、物語の骨子がそっくりなのです。
しかも、宮崎駿氏(ドラマでは染谷将太さん)が初めてホルスで本格的に作品制作にかかわるというところもそのまま。
物語やキャラクターの原画を複数のスタッフたちで決めていったというのも、ホルスの制作方式をそのまま描いているようです。
例えば、ファンの多い美少女キャラ”ヒルダ”についても、担当した森康二氏だけではなく、奥山玲子氏や小田部洋一氏たちも案を出したらしく、そのボツになったヒルダの絵が展示されていました。
参考までに、実際に「太陽の王子ホルスの大冒険」の原画を担当したスタッフを以下にまとめてみました。
( )内は「なつぞら」でモデルにしていると考えられる登場人物を演じている俳優さんです。
尚、Wikipediaなどのネット情報を参考にまとめたものなので、事実と違うかも知れないことだけご了承くださいね。
キャラクター | 原画担当 |
ホルス | 大塚康生(麒麟の川島明) |
ヒルダ | 森康二(井浦新) |
グルンワルド(ヒルダや人間たちをあやつる悪魔) | 宮崎駿(染谷将太)、奥山玲子(広瀬すず)、林静一(?) |
岩男モーグ | 宮崎駿(染谷将太) |
チロ(ヒルダと一緒にいるリス) | 小田部洋一(?) |
氷マンモス(魔力で作り出された怪物) | 宮崎駿(染谷将太) |
狼たち(魔力で作り出された怪物) | 大塚康生(麒麟の川島明) |
ピリア(婚礼をあげる村の女性) | 奥山玲子(広瀬すず) |
ルサン(婚礼をあげる村の若者) | 小田部洋一(?) |
もちろん演出(監督)は高畑勲氏(中川大志さん)。
ドラマでは井浦新さん(森康二氏)は現場スタッフにはなっていないようですが、ホルスでは一番人気のキャラクターのヒルダを担当。
渡辺麻友さんが演じている三村茜のモデルであろうと思われる大田朱美氏も、具体的にどのキャラかはわかりませんが、原画を担当されていたようです。
ただし、貫地谷しほりさんが演じている大沢麻子のモデルであろう中村和子氏は、この時すでに東映動画は辞めて手塚治虫氏の虫プロダクションに移籍していた模様。
以上のように、ホルスを知らずに「なつぞら」を観た人でも、「ほほー!」と思う資料ばかり。
このあたりのこと、かなり意識した展示になっているような気がするのですよね。
そのほか、たぶん宮崎駿氏だと思われるのですが(※記憶ちょっと曖昧なので正確な記載ではありません)
「〇×動物を登場させることは反対。皮をはいで焼いて食っちゃうはずだから」
「(氷のマンモスの原画の下に)動かすのが無理なんて思わないで」
「動きは〇×手法を参考にするとよい。よく知らんけど」
などといったちょっと面白い手書きメモが原画の横に書かれていたりするので、隅々まで目を凝らして観たくなり、時間がいくらあっても足りませんでした。
実際私は、ホルスのコーナーだけで40分も滞在。
思いっきり怪しい人ですな。
<後日追記>
「なつぞら」の7月29日週放送に登場する長編アニメーション「神をつかんだ少年クリフ」も「太陽の王子ホルスの大冒険」がモチーフになっています。
「クリフ」の登場人物キアラの絵が「ホルス」のヒルダまんまでしたし、剣とか悪役キャラも「ホルス」に似ているし、興行的に成功しなかったこともそっくり。
キアラの作画を森康二さんがモデルの仲さん(井浦新さん)が担当することも史実そのまま。
但し、「なつぞら」のキアラの作画は小田部羊一さんが担当されたそうです。
尚、渡辺麻友さん演じる三村茜は大田朱美さんをモデルにしていると上↑で書いていますが、大田さんは宮崎駿さんの奥様。
ドラマでは三村茜は宮崎駿さんがモデルの神地航也(染谷将太さん)ではなく、川島明さん演じる下山克己(大塚康生さん)と結婚したので、ここもちょっと史実とは違います。
渡辺麻友さんが結婚宣言した時、相手は染谷将太さんだと思っていたらまさかの川島明さんだったので、「えーーー!」と画面に向かって叫んだのは私だけではなかったはず。
まんまとやられましたよ。
そもそも奥山玲子さん(広瀬なつさん)は高畑勲さん(中川大志さん)ではなく小田部羊一さんの奥様ですしね。
「なつぞら」はフィクションですから、史実と違うのが前提です。
そのほかの展示。
もちろん、そのほかの作品の展示もかなり充実しています。
展示室での写真撮影は禁止ですが、唯一撮影OKになっているのは「アルプスの少女ハイジ」のジオラマコーナー↓

ちゃんとハイジ、おんじ、ペーターがいますよ↓

ハイジの展示室では、スイスまでロケハンに行って描いたという美しい背景画や、お馴染みのシーンの絵コンテなど、本当に貴重な資料の数々に目が釘付け。
「火垂るの墓」のコーナーにも、あの有名なドロップ缶のシーンの絵コンテや色指定の資料などがあり、思い出して泣きそうになってしまいました。
大好きだったテレビアニメ「赤毛のアン」の資料が充実していたことにも感涙。
そして、不覚にも私は観ていない「かぐや姫の物語」のコーナーでは、壁のあちこちに投影されていた映像がとにかく美しくて、「ああなぜ映画館で観なかったんだろう」と深く後悔。
大画面で観るべきだった……。
とにかくどれもこれも見入ってしまう資料や映像ばかりで、気づけば2時間が過ぎていました。
グッズなど連れ帰ったモノたち。
家に持って帰ったモノたちをご紹介。
チラシ↓(同じチラシの表と裏です)

チラシを開いたところ↓

「太陽の王子ホルスの大冒険」のグッズを2種類購入しました↓

左に写っているのはグッズを買うともらえる紙袋とチケット。
右上は蚊帳ふきん。(いつも蚊帳ふきんを愛用しているのです)
右下はクリアファイル。
ここでホルスをよく知っている人なら、
こんなのヒルダじゃないーーーーー!!!!!
……と思うはず。

かくいう私も、事前に公式ホームページでグッズをチェックした時に、
なんじゃこのヒルダは??????なぜにこんな絵?????
……と思っていたのでした。
実はこれが今回の高畑勲展が「なつぞら」と連動しているポイントその3。
この絵、広瀬すずさん演じる奥原なつ(じゃなくて奥山玲子氏)が描いたボツになったヒルダ案なのです。
だからわざわざ”ヒルダD”という文字も残しているのでしょうし、「なつぞら」視聴者を意識していなかったら、森康二氏のヒルダの絵を使うはず。
森氏のヒルダはこちら↓(チラシに掲載されている絵)

ヒルダのこの容姿↑のファンは多いのだから、普通の展示会のグッズにボツ絵を使うはずがないのであります。(きっぱり)
なにしろヒルダは、日本アニメの美少女キャラ第一号と言われているし、後のアニメに登場する女性キャラに深く影響を与えたくらいのビジュアルなのですから。
ちなみに裏は森氏バージョンのヒルダに近いイメージになっています↓(でも顔が無い〜)

「なつぞら」は好きだけど、やっぱり森氏バージョンのヒルダのグッズが欲しかったなぁ。(小声)
<後日追記>
7月31日放送の「なつぞら」で、このクリアファイルのボツになったヒルダとそっくりの絵を奥原なつ(広瀬すずさん)が描いているシーンが登場します。
おまけ。東京国立近代美術館の常設展。
高畑勲展のチケットを買ったら常設展の入場チケットももらえたので、少し観て帰ることにしました。
私は昔よりも近代の絵の方が好きだし、芸術には疎い私でも知っているような画家たちの絵が多数展示されていて見ごたえたっぷりでした。
……と偉そうに書いていますが、実は2時間じっくり高畑勲展を観たおかげで足が相当疲れていたので、3フロアを30分でささっと観ただけ。
今度改めて観に行こうっと。(汗)
ついでに神保町か大手町まで歩いてランチでも食べようと思っていたのですが、疲れと雨により断念。
まとめ。
この高畑勲展は、東京近郊に住んでいる高畑氏のファン、そして「なつぞら」ファンはぜったいに観ておいた方がよい美術展だと断言。
(NHKの回し者ではありません)
10月6日(日)までと会期はまだしばらく続きますが、夏休み期間や終了間際はかなり混むことが予想されるので、絵コンテなどをじっくり観たいならば、なるべく空いている時期や時間を選んで行くことをおすすめします。
ちなみに内容は子どもよりもおとな向け。
平日だったこともありますが、小さいお子さんはまったく見かけず、年配の人が多かったように見えました。
ホルスやハイジやマルコ(母を訪ねて三千里)などを観て育ち、「火垂るの墓」で涙した経験があり、そして「なつぞら」を観ている人たちが主な来場者だからでしょう。
私世代(50代)でも肩身は狭くない……と言うか、むしろ私世代向けの展示だと思うので、通常のジブリなどアニメ関連の美術展よりも気軽に観に行けると思います。
公式ホームページはコチラ↓
https://takahata-ten.jp/