>>装丁マニアの部屋

直木賞候補作品「オルタネート」。表紙のホログラム箔に注目してみた。

この記事をアップしたのは2021年1月15日。

その5日後の1月20日、第164回直木賞が発表されます。

今回の候補作品に、ジャニーズ事務所のNEWSメンバー、加藤シゲアキ氏の「オルタネート」が選ばれたことに驚いた方も多いのでは。

私もそのひとり。

正直、芸能人としての加藤氏にもNEWSにもジャニーズのタレントさんにも全く興味がありません。

2012年から1~2年周期で小説を出版していて、一定の評価を得ていることには注目していたので、いつか読んでみようかな、くらいには思っていたのですが、まさか直木賞にノミネートされるとは……。

ただ、ノミネートのニュースを見た時点では、読んでみようとはまだ思っていませんでした。

でも、書店で同書を見かけた際、その装丁に目が釘付けに。

むむむ???

この表紙の「ホログラム箔」にはどんな意味があるの???

小説本の装丁(デザイン)は、物語をイメージ化したもの。

少女の顔の一部に、あえて「ホログラム箔」を押してある意味を、装丁マニアとして知りたい!!!

そう思い購入。

そして読み始めたところ……。

ページを繰る手がとまらず、ほぼ一気読み。

さすが直木賞ノミネート作品。(上から目線)

難しい言葉を使うでもなく、独自の世界観を持った文章力。

クライマックスでは、自然と頭に映像が映し出されるくらい鮮やかな疾走感があってちょっと鳥肌がたってしまったほど。

同じく高校生たちを主人公にした恩田陸氏の名著「夜のピクニック」を読んだ時と同じような、ほろ苦く、そして爽やかな読後感に包まれたのでした。

加藤氏が小説を出版するにことについて、ジャニーズのタレントだから「得していること」と、「損していること」を比較したら、圧倒的に後者の方が大きいとすら感じました。

私もそうでしたが、「アイドルが書いた小説なんて読むかいな」って思っている小説ファンは少なからずいるでしょうからね。

でも私は「オルタネート」を読んだことにより、加藤氏のことを「アイドルなのにすごい」とか、「芸能人が書いたとは思えない」とか言うことすら失礼なのでは?と思うようになりました。

だからココでも、「いち小説家」のおススメな本として紹介いたします!

この先、特に問題無いであろうと思われるほんのちょこっとだけネタバレっぽいことも書いています。気になる方は読まないでくださいね。

思わず手に取りたくなる美し過ぎる本。

本の概要。

今回紹介するのは以下の本。

装丁を担当しているのは新潮社装幀室。

新潮社の本の装丁は自社の部署が担当しているので、デザイナーさんの名前が載っていないのですが、挿画を担当された久野瑤子氏のTwitterに、

design:asako tadano(shinchosha book design division)

と記載されていました。

基本データ
  • タイトル:オルタネート
  • 装丁:新潮社装幀室
  • 装画:久野瑤子
  • ジャンル:小説(高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」を通じて様々な人間模様が繰り広げられる青春群像物語)
  • 出版社:新潮社
  • 著者:加藤シゲアキ

帯の説明に「高校生限定のマッチングアプリ”オルタネート”が必須となった現代」と書かれているし、冒頭で遺伝子云々といった話が出てくるので、近未来的な話?とか、何か大きな事件でも起きる話?とか思ってしまったのですが、全く違いました。

ほろ苦い気持ちになったり、心がポッと温かくなったり、確かにそうだ!と気付かされたりするような、何気ないけれど胸に刺さるセリフがところどころに散りばめられている、正統派な青春群像劇です。

カバー。

以下は帯がついた状態。

カバーを広げてみるとこんな感じ。

登場人物たちのイラストが描かれているのですが、内容的に若い人たちにも読んでもらいたいということで、10代の目をひくようなイラストを採用したのかも知れませんね。

この物語の重要なモチーフになっている「植物」も描かれています。

挿画を担当された久野瑤子さんのTwitterにUPされている制作過程が面白い!

特殊な印刷加工。

私の目をくぎ付けにしたのが、表紙のホログラム箔。

ちなみに、箔押しを使うと印刷代がかなり嵩むので、売れるかどうかわからない本には絶対に使えない贅沢な手法なのですよ。

あえて反射するように写真を撮ってみました↓

以下は、自分なりに解釈してみたこのデザインの意味。

  • この箔は、スマホであり、その中にあるアプリ「オルタネート」を現わしている。
  • 少女の目に箔を置いているのは、「オルタネート」を通じた高校生の日常を描いている物語だから。
  • きらきら光って見える10代の毎日の裏には、人には見えない闇、人には見えない苦しさが潜んでいる。でも、彼らにとっての1日1日は、まごうことなくきらきらした時間。その鮮やかな一瞬を表現している。

これは私の勝手な解釈。

たぶん正解であり、正解ではないと思うので、それぞれがそれぞれに解釈してみると面白いかと。

表紙。

カバーを取った表紙はこんな感じ。

各登場人物たちの象徴的なシーンがイラスト化されています。

見返しと遊び紙。

見返しはわりと普通の白い紙ですが、扉にもステキなイラストが。

花の絵の緑と、薄いピンク色の文字の取り合わせがとてもステキ。

このヒヤシンスは、登場人物たちの成長を象徴する花として何度か物語の中に出てきます。

まとめ。

「オルタネート」装丁のココがすごい!
  1. ホログラム箔が物語を象徴的に表現している。
  2. 若い読者に受けがよいデザインとなっている。
  3. 小説の内容とリンクしたイラストが効果的に使用されている。

ひとことだけ余計なことを書きますが、小説ファンには是非色メガネを外して読んで欲しいと思っています。

逆に、加藤ファンやNEWSファンのみなさんには、直木賞をとってもとらなくても、少し静かにしていた方が一般の小説ファンの受けはよくなるかもということを伝えたいデス。

各サイトのレビューがファンのカキコミだけで埋まってしまうと、小説ファンがしらけてしまいますからね。

読者を少しでも増やすためにも、加藤氏のためにも、どうか冷静に。

少なくとも、レビューに「シゲが……」と書くのはやめた方がいいです。

ファンのサクラ的なレビューじゃないかと、意地悪な目で見られちゃうので。

(偉そうなことを書いてすいません)

とにかく装丁も内容もとてもおススメできる本なので、しょせんタレントが書いた本でしょ?などと思わず、是非手にとって読んでみてください。

はやし
はやし
直木賞とれるかなー?とれることを祈っていますよ!

第164回直木賞候補作品はこちらの6作品↓



直木賞は西條奈加氏の「心淋し川」が受賞しました。

おめでとうございます!(読まなきゃ!)

「オルタネート」は直木賞の受賞は逃しましたが、吉川英治文学新人賞を受賞!!

ホントにすごい!!!!!

本屋大賞の発表も楽しみですねー♪

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