>>装丁マニアの部屋

美しくて奥深い「彩り」の世界へ。「色の辞典」。

本の編集の仕事をちょっとだけかじったことがある私が、美し過ぎる本の装丁について勝手に解説している「装丁マニアの部屋」も今回が3回目。

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今回は装丁が美し過ぎるだけでなく、本の内容も美し過ぎる新井美樹さん著「色の辞典」をご紹介。

絵画、デザイン、アートなど、「色」の世界に興味がある人すべてにおすすめしたい、すごく貴重な本です。

「色の辞典」は色そのものが究極のアートだと教えてくれる本。

本の概要。

今回紹介するのは以下の本。

小さな出版社「雷鳥社」が発行している本です。

基本データ
  • タイトル:色の辞典
  • デザイン&イラスト:山本洋介、大谷友之祐
  • ジャンル:辞典(「色」の名前とその由来等について解説した本。名前だけ掲載されている「色」も数えると411種類に及ぶ)
  • 出版社:雷鳥社
  • 著者:新井美樹

仕様。

この本のサイズは、文庫本より少し大きいだけの可愛らしいサイズ。

小さいながらも、ハードカバー仕様のしっかりしたつくりになっています。

カバー。

カバーはベージュのザラ紙(?)で、表の一部だけ窓が開いています。

なんて可愛らしいんでしょう♪

表紙。

カバーを取った表紙はツルツルピカピカのコート系。

背表紙の両脇にある深めの耳(溝)は、辞書っぽい雰囲気を出しているだけでなく、ページを開き易くしています。

嗚呼、本当に可愛らしい♪

本文デザイン。

この本では411種類の色が、赤、黄、緑、青、紫、茶、黒・白という7つのカテゴリーに分けられて解説されているのですが、その中扉が美しい。(リサラーソンの猫と犬は単なる重しです)

色の解説に添えられているイラストがいちいち可愛いらしい♪(写真がうまく写せてなくてイマイチ伝わらずごめんなさい)

同じような色の微妙な違いがイラストで表現されていたり、色の名前の由来などについてわかり易く解説されています。

「色」のカテゴリー分けと解説がわかり易くておもしろい。

単に赤とか青とかの色の種類だけではなく、ちょっとおもしろいカテゴリーなどもあります。

以下↓は、ルノワールピンクやピカソブルーなど、画家の名前が付けられた色のページ。

ほかにも、土、果物、お茶、動物(鳥、ネズミなど)にまつわる色を集めたページなどがあり、中には聞いたことも見たこともないような色も。

例えば……

空五倍子色(うつぶしいろ)

ウルシ科の落葉小高木ヌルデ(別名フシノキ)の枝の虫こぶ(アブラムシの幼虫が寄生したもの)で染めた色。暗く濁った茶色。虫こぶを五倍子(ふし)といい、内部が空洞のため空五倍子となった。薬や染料、お歯黒の原材料に用いられた。

似紫(にせむらさき)

色の禁制が緩んだ江戸時代に大流行した紫染めのこと。本来は紫草で染めた色のみが紫色とされていたが、材料が高価で手間もかかるため、蘇枋や茜を代用。媒染を工夫して紫染めに近いものを作り、憧れの色を楽しんだ。

実に興味深い。

しかしこの本、編集者やデザイナーの立場で考えると、完成までかなり大変だったのではないかと推察。

なぜなら、「色の辞典」と謳っている限りは、その色をなるべく忠実に再現することが必要なわけなので、印刷の仕上がりを確認するのが相当大変だったと思われるからです。

印刷会社(シナノ印刷株式会社)との連携がうまくいかないと、「辞典」のレベルに達した本にはならないので、校正刷りの作業だけでもかなりの手間がかかったのではないでしょうか。

その苦労がしのばれます。

でも、それぞれの色は本当にキレイに再現されています。

スタッフみなさんに拍手をお送りしたい気分。

実は著者とお仕事をご一緒したことがある。

この本と出合ったのは、表参道の交差点からすぐのところにある小さな本屋さん、山陽堂書店で開催されていた「雷鳥社の本まつり」に立ち寄った時のことでした。

雷鳥社とは、社員6人のこじんまりした出版社で、独特のセンスの本を多数刊行しています。

目的は大好きな動物彫刻家のはしもとみおさんの本と彫刻展示を見るためだったのですが、そこにはたくさんのステキな本が。

特に「辞典シリーズ」の本たちが美しくて目が釘付けに

その中にあった「色の辞典」をパラパラと見て買おうかどうか迷っていた時、ふと著者名に目が留まりました。

あれ?

新井美樹さんだ!

実は、私が書籍編集の仕事をしていた時、新井さんに装丁をお願いして一緒に仕事をしたことがあったのです。

その本は作家の平山夢明さんと京極夏彦さんのラジオ番組を書籍化したものだったのですが、京極さんに表紙イラストをお願いしたり、先日直木賞を受賞された真藤順丈さんにも小説ではなくなぜか挿絵を描いてもらったりと、はちゃめちゃなことをいろいろやった本でした。

限られた時間の中でいろいろな無理を受け入れて装丁を仕上げてくださったのが、新井さんだったというわけ。

「この出会いは運命か?」と思い、1冊家に連れ帰ったのでした。

ちなみにこの「色の辞典」の装丁は、新井さんではなく別の方々(山本洋介さんと大谷友之祐さん)が担当されています。

まとめ。

ひとつの色にも様々な歴史や由来があると知っていると、絵画やアート作品もより一層楽しめるようになるのではないかと思います。

色それ自体がアートにも見えてきます。

もちろん読み物としても十二分に楽しめるので、私のような芸術的センスも絵心も全くな人にもおススメ。

ディープで耽美な色の世界にどっぷり浸ることができますよ。

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